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東京地方裁判所 昭和37年(行)112号 判決

原告 東京製旗株式会社

被告 日本橋税務署長

訴訟代理人 横山茂晴 外三名

主文

一、被告が原告の昭和三五年四月一日から昭和三六年三月三一日までの事業年度分の法人税につき昭和三七年九月二九日付でした再更正および加算税賦課決定のうち、所得金額二、五九三、八六九円を超える部分および当該所得金額に基づいて算定した税額をこえる部分を取消す。

二、原告の本件訴のうち、被告が原告の右事業年度分の法人税につき、昭和三六年九月三〇日付でした更正の取消を求める部分を却下する。

三、原告のその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用は、これを五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

(原告)

原告の自昭和三五年四月一日至昭和三六年三月三一日事業年度の法人税確定申告につき被告が昭和三六年九月三〇日に行つた更正並びに昭和三七年九月二九日に行つた再更正及び加算税賦課決定はいずれも取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

(一)  本案前の申立

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(二)  本案の申立

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、請求の原因

原告は、自昭和三五年四月一日至昭和三六年三月三一日事業年度(以下係争事業年度という)の原告の法人税につき昭和三六年五月三一日確定申告(所得金額一、一五二、一六九円、法人税額三八〇、一九〇円)を行つたところ被告は昭和三六年九月三〇日更正処分(所得金額二、八五九、四六九円、留保所得金額八一三、八〇〇円法人税額一、〇六七、九五〇円)をした。これに対し原告は昭和三六年一一月一日被告に対し再調査請求をしたが、右請求は、昭和三七年一月二七日棄却された。これに対し原告は同年二月二八日東京国税局長に対し審査請求をしたが、右請求は同年七月二〇日棄却され、その頃その旨の通知があつた。

さらに、被告は昭和三七年九月二九日再更正処分(所得金額九、二〇三、二八〇円、留保所得金額三、七九五、六〇〇円、法人税額三、七七六、七七〇円)をし、過少申告加算税一五九、三五〇円、重加算税一〇五、〇〇〇円を賦課決定し、その頃その旨の通知があつた。

しかし被告のした右各処分はいずれも違法であるのでその取消しを求める。

第三、被告の答弁及び主張

一、被告のした各処分が違法であるとの点を除きその余の事実は認める。

二、被告が昭和三六年九月三〇日行つた更正処分は、昭和三七年九月二九日行つた再更正処分によつて消滅しているから、更正処分の取消を求める訴はその対象を欠くものである。又、再更正処分及び過少申告加算税、重加算税賦課決定について原告は所定の不服申立手続を経ていないので、結局原告の訴は不適法である。

三、原告は同族会社であるが、その主張の日、主張どうりの確定申告をしたので被告で調査したところ申告額に誤りがあつたので更正処分をしたが、その後の調査により更に次のとおり不足額が判明した。

(1)  仕入中(支払手形)否認     五〇二、七〇〇円

(2)  旅費中(未払金)否認      一五九、〇〇〇円

(3)  従業員賞与中(未払金)否認   七八〇、〇〇〇円

(4)  土地売却益(貸付金)計上洩 六、一〇四、〇〇〇円

(5)  貸金利子(認定賞与)計上洩   五〇五、四一一円

よつて被告は右(1)乃至(5)の合計額金八、〇五一、一一一円を申告所得額に加算し、所得金額を九、二〇三、二八〇円、法人税額三、七七六、七七〇円、過少申告加算税一五九、三五〇円、重加算税一〇五、〇〇〇円と賦課決定したものである。

四、以上のうち争いのある(2)乃至(5)の計算の根拠は以下のとおりである。

(一)  旅費中(未払金)否認一五九、〇〇〇円について、

原告は係争事業年度中の旅費として六六一、四二五円を計上し、うち四二四、六〇〇円は未払金であるが被告は右未払金のうち一五九、〇〇〇円の損金算入を否認したものであり、その理由は次のとおりである。

原告は、旅費支出につき従来実費支給制度をとつていたところ、係争事業年度末に旅費規程を制定してこれを定額支給制度に改め、原告代表者小林永治にかかる旅費につき昭和三五年七月一日にまで遡及して新規程を適用し、期末に一括計算して右未払金を計上したものである。

しかし旅費というものは本来実費により支給されるべきものであり、(但し、旅費規程により定額制を定め、それによつている場合でもそれが本来の実費弁償に代るものとして社会通念上妥当な合理的基準に基づき算定されているならば、実費との間に多少の過不足があつても会社からみれば必要経費として認めらるべき性質のものである。)右のように期末に一括計算して未払金処理をすること自体不自然なものであるのみならず、原告には出張命令簿、復命簿等証拠書類の備付もなく、右未払金の計上は期末において記憶等により旅費精算書用紙に一括記入したものに基づくものであり、出張事実の存在自体不確実なものである。そして別表一によつてもあきらかなように、原告の既往事業年度に比し業況の変化は認められないのに当期において旅費が急増していることを考え合せると、

(1) 未払旅費に対応する出張はすべて架空である。

(2) 仮に全部が架空でないとしても少くとも別紙記載の二六件(対応旅費額三一〇、一〇〇円)は社用出張の事実がない。

(3) また仮に出張の事実自体はすべて存在したとしても、次の如き理由により本件未払旅費中少くとも一五九、〇〇〇円は否認さるべきである。

(i) そもそも旅費は職務を遂行するに通常必要な旅行をなした場合にその旅行実費を弁償するために受けるものである。国はもちろん地方公共団体、企業等の旅費支給者の多くがいわゆる定額旅費制度を採つているのは、旅行経路、利用交通機関および宿泊施設等について個々にその実態を把握したりその実費費用を計算したりすることの困難煩累であるところから合理的な根基により社会通念上の実費に近い定額を予め規定して事務的手続を簡素化する趣旨によるものである。そこで税務の執行面においては、右定額が本来の実費弁償に代えて社会通念上妥当な合理的基準に基づき算定されているならばその定額と旅行実費との間に若干の過不足があつてもそれは僅少の差に止まるであろうから社会通念および課税技術上敢えてその過剰分については課税を行わないわけである。

税法は、非課税所得としての旅費額の範囲あるいは損金として認められる限度については直接これを規定していないが、それは当該会社の規模、業態及び業績その他の諸状況からみて当該会社の業務遂行上通常且つ必要なものであると一般に観られる程度のものでなければならないのである。

そして右の観点に立つ場合、原告の旅費規程(甲第一三号証)およびその運用には妥当を欠くと認められる多くの問題点が見受けられる。次にその主な点を指摘する。

(イ) 日当

所謂日当とは旅行中の中食費の補給費およびこれに伴う諸雑費並に目的地たる地域内を巡廻する場合の車賃等の交通費および諸雑費にあてるための旅費であると解されており、おおむね中食関係費が半分その他の費用が半分という構成が考えられているから旅行の時間的、距離的条件によつて日当の定額に差異を付するのが合理的である。

この点、たとえば国家公務員旅費法においては次のように区分規定されているとともに日額旅費という例外制度が設けられており交通費、日当等の旅費に代えてそれらが複合された形の日額旅費が定められている。

支給金額

〈1〉 日当定額

〈2〉 日当定額の1/2

〈3〉 日当定額の1/3

〈4〉 日当又は日額旅費を支給しない

支給条件

〈1〉 鉄道百キロメートル以上の旅行(並通旅費)

〈2〉 鉄道百キロメートル未満の旅行(並通旅費)

在勤地(在勤官署から半径八キロメートル以内の地域)内旅行で行程十六キロメートル以上又は引き続き八時間以上の場合(日額旅費)

〈3〉 在勤地内で行程八キロメートル以上十六キロメートル未満の場合又は引き続き五時間以上八時間未満の場合(日額旅費)

〈4〉 右〈3〉に満たない場合

ちなみに国家公務員についての日当定額(昭和三六年三月当時)は別表二の如き金額であり実費弁償としての日当の性質上、その金額は原告会社のそれより著しく低いものとなつている。

ところで原告旅費規程第五条に規定されている日当定額は単に都内と都外とに区分されているのみで、その例外として第六条に半日当の支給条件が、第十条に日当を支給しない条件が、それぞれ規定されているが、甲第八号証についてみるに、第十条に照してその例外規定が実際に適用された形跡は見受けられない。

例えば四粁未満と認められる地域にも拘わらず、一率に日当として千円を計上している如きは規程を忠実に適用したものとは言えない。

(ロ) 宿泊料

宿泊料は、旅行中の宿泊の費用、すなわち夕食代および朝食代並びに宿泊料金およびこれらに伴う諸雑費に充てるため支給される旅費と考えられるから斯かる費用実費の宿泊先における差異を前提として規定するのが合理的であり、例えば国家公務員旅費法においては斯かる観点に立つて具体的に各地域の旅館等について調査した結果、次のとおり甲地方と乙地方とに区分し、別表二の如くその定額を規定している。

甲地方

いわゆる六大都市のうち大蔵省令で定める地域およびこれらに準ずる地域で大蔵省令で定めるもの。(東京都の郡部の一部等を除き、福岡、北九州および六大都市の周辺の一部を含む。)

乙地方

上記以外の地域

固定宿泊施設に宿泊しない場合(いわゆる車中泊等)には乙地方に宿泊したものとみなされる。

しかるに、原告旅費規程第五条に規定されている宿泊料定額は、単に都内と都外とに区分されているに止まるのみならず、都外の定額が都内のそれよりも多額であり、その例外として第七条にいわゆる車中泊等の場合の半泊料支給が規定されているが、甲第八号証についてみるに第七条に照してその例外規定が実際に適用された形跡は見受けられない。

例えば甲第八号証の4(青森出張旅費精算書)の裏面には往復とも夜行列車を利用した記録があるが、宿泊料計上額は二泊七、〇〇〇円(規定通り計上するならば、車中二泊三、五〇〇円が正当である)となつており、同じく19(仙台出張旅費精算書)の裏面にも往路夜行列車を利用した記録があるが、宿泊料計上額は一泊三、五〇〇円(規定通り計上するならば車中一泊一、七五〇円が正当である)となつている如きであり、関西方面出張についても同様な事情が推定されるが特別な記録はなされていない。

(ハ) 車馬賃

原告旅費規程第五条によれば、単に実費と規定されているが、国家公務員旅費法には車賃として「陸路(鉄道を除く)旅行について路程に応じ一キロメートル当りの定額又は実費額により支給する」と規定されている。

右定額の規定は内国旅行について適用されるが、その場合の車賃とはいわゆる乗合バス(一般乗合旅客自動車運送事業)を利用する前提の下に規定されている。従つて、例えば、ハイヤー、タクシー等の陸上交通機関を利用することは旅行者の自由ではあるが、その費用までも支給されるものではない。

国家公務員旅費法においては、鉄道等の延長として最寄駅等から旅行目的地に至る往復費用の車賃と目的地たる地域内を巡回する場合の車賃等(後者は前述のとおり日当定額の構成部分と考えられている)とを区分取扱しているのに対し、原告の甲第八号証に記載されている車賃はその何れであるのかも不分明であるうえに証拠資料、利用交通機関明細等の添付もなく支出の事実が確認されない。

(ii) 以上旅費に関する税法上の取扱いについての被告の見解をのべるとともに、そのような観点に立つた場合原告会社の旅費規程の内容が杜撰なものであることを指摘し、しかもその現実の運用面は更にルーズなものであり、原告会社がその旅費規程をいわゆる節税の具として利用しようとした態度がはつきり露呈されていることを若干の具体例を以て指摘した。

被告は、基本的には本件旅費の問題を原告会社がその利益調節のために形式面で操作し、利益削減の具に供したものと解し、これを無条件で損金算入することを否認したものである。

(4) 本件旅費は同族会社の行為計算否認規定により否認さるべきものである。

以上の理由により一五九、〇〇〇円の限度で本件旅費の損金算入を否認した被告の処分は正当である。

(二)  従業員賞与中(未払金)否認七八〇、〇〇〇円について

原告は、その係争事業年度中の利益を従業員に還元するものとして通常の賞与(昭和三五年七月一二日、計上二三二、〇〇〇円および同年一二月二三日計上二三九、〇〇〇円各現金支給)の外に、昭和三六年三月三一日の取締役会決議にもとづき総額七八〇、〇〇〇円のいわゆる従業員別段賞与を支給することを決定したとして、これを係争事業年度中の損金(未払金)として計上して財務諸表を作成するとともに、係争年度の法人税申告期限までに受給者ごとに分別したと主張している。

(1) しかし右別段賞与支給の決定は、昭和三六年三月三一日の取締役会の決議によるものではなく、それは係争事業年度の決算が大体終り利益金の規模が判明した翌事業年度にいたつて、係争事業年度の利益削減の目的でなされたものであるから、右別段賞与は少くとも係争事業年度の損金にはならないことは明らかである。

(2) 仮に右別段賞与を決定する旨の取締役会の決議が昭和三六年三月三一日になされたものとしても、本件別段賞与の未払金計上は、法人税法基本通達二六五(昭和四〇年直審(法)五九により削除されたもの)の要件にあたらないので係争事業年度の損金と認めることはできない。

つまり、そもそも法人税法上ある費用が損金として認められるためには、それが当該事業年度中に発生したことと金額が確定したことが必要であり、賞与についてもその発生とともにその支給額が確定されない限り損金算入は認められず、従つてその見積額を引当金として計上することは認められないのが原則である。しかし企業経理の実務上は確定損金と同一視できるような未払賞与の計上が現実に予想されるため、前記原則の緩和取扱として前記基本通達が制定されたものである。

そして右通達によれば、「法人が使用人に対する賞与を引当て、これを損金として計上した場合においても当該引当金を支給することが確実であり、且つ、法第一八条から第二一条までの規定による申告期限までに受給者ごとに分別されているときはこれを認める。」ことになつている。ところが、原告は本件別段賞与の支給につき取締役会での決議の時すでにこれを現金支給せず一方的に借入れることを予定しており、(現に後に「利益還元従業員別段賞与貸付承諾書」なる書面を受給者より徴しておりその大部分は現実には支給しなかつた。)しかも本件の如き別段賞与は原告において従前より実施してきたものでもなく、特に原告の業況が急上昇したとの実績も顕著でない本件係争事業年度が最初である上、昭和三六年八月一五日には翌事業年度分の夏季賞与はすでに支給され終つていたにもかかわらず本件別段賞与の各受給者はそれが支給されることも知らされず、全額未払、支給時期未確定の状態のままであつたので、被告は本件別段賞与は右通達の「支給することが確実である」という要件にあたらないと認めその損金算入を否認したものである。

(3) また本件別段賞与支給の目的については原告の翌事業年度におけるいわゆる別段賞与の支給、借入れの際の「利益還元従業員別段賞与貸付承諾書」の裏面には「従業員からの借入金を社内で運用して利子をつけ、年々の増額を楽しみにさせるとともに、できたら退職の時まで借用し狭義の退職金と合せ持たせてやる親切を」と記載されており、従業員自身もまた退職時までに事故のない限り退職時に支給されるものと理解しているものの如くである。従つて右別段賞与は退職給与金の性質を持つものと認められる。ところで退職給与金は税務計算上はその支給の時の損金とすべきものであり、またその引当金については税法上一定の条件の下に損金算入が認められるにすぎない。(法人税法施行規則―法人税法施行令(昭和四〇年政令第九七号)による改正前のもの、以下同じ、―一五条の七以下)ところが原告は青色申告法人でもなく、退職給与規程も定めていないので右規定の適用を受け得ないところから右規定を潜脱するために本件別段賞与という名目を利用したものと認められ、その損金算入を認めることはできない。

(4) 本件別段賞与は同族会社の行為計算否認の規定によつてもまた否認できるものである。

(三)  土地売却益(貸付金)計上洩六、一〇四、〇〇〇円について

(1) 原告は昭和三三年四月、東京都中央区日本橋久松町八番地の一、宅地二四坪(以下本件土地という)を訴外江橋通夫より買つたものであるが、その際の代金は五、二五〇、〇〇〇円であり、そのうち一、六五〇、〇〇〇円について原告はその簿外資産もしくは原告代表者小林永治より贈与を受けた金員により支払つた。

そして原告は更に右土地を昭和三五年四月二〇日原告代表者小林永治に代金四、〇〇〇、〇〇〇円で売却したものである。

(2) 右について原告は、本件係争事業年度の所得の計算上、取得価額(原価)三、六〇〇、〇〇〇円、売却代金四、〇〇〇、〇〇〇円としてその差額四〇〇、〇〇〇円を所得として計上した。

(3) しかしながら、右土地の昭和三五年四月当時の時価は、一〇、一〇四、〇〇〇円(坪当り四二一、〇〇〇円)が相当であり、右売却代金四、〇〇〇、〇〇〇円は著しく低廉である。

つまりたまたま昭和三五年二月一三日、本件土地と近傍類地の関係にある中央区日本橋久松町二五番地の一一に所在する土地が、杉山喜代太郎から東京都に対し坪当り平均四二一、三九九円で売却された事例があり、場所的、時期的にみて本件取引と相似しているのでその価額を本件にも適用したものである。

原告は本件土地は道路計画により所有権の完全な行使を制限されているので、かような土地を買うものは殆んどなく、又小林永治もこれを他に転売する可能性が殆んどない旨主張するが、右小林永治は昭和三五年四月一〇日、建築基準法四四条二項の規定に違反して本件土地の上に請負代金五、〇四〇、〇〇〇円の鉄筋四階建ビル建築に着手したのである。(尚小林永治は右ビルを同年八月まで月一〇万円で原告に貸し、同年九月右ビルを六、〇八五、七四〇円、本件土地の借地権を四、〇〇〇、〇〇〇円でいずれも原告に譲渡した。)

また道路計画路線の正式廃止は建設大臣の告示をまつて行われるのであるが、東京都事務当局においては昭和三二年春頃から計画路線の変更について種々研究を続けており、その変更予定の大要については昭和三四、五年頃すでに建築確認申請等の手続の過程において世上一般に窺知されうる状態にあつたので、本件取引当時においては本件土地に係る道路計画路線廃止内定は殆んど衆知の事実であつた。従つて計画路線外の土地に比して地価評価上格段の差異はあり得ず、また取引の相手方について制約を受けることもありえなかつた。

更に仮に譲渡が制約されていて、東京都に道路敷地として収用されるとしても、時価相当額の補償を受けられるのであるから、譲渡の制約による価額の下落はないのみならず、本件土地の取引当時においては近く地下鉄開通等により本件土地近辺の地価は異常に高騰するであろうと予想されており、本件取引価額四、〇〇〇、〇〇〇円は異常に低廉である。

(4)(i) ところで法人がその有する固定資産を贈与した場合または時価に比して著しく低い価額で譲渡し、その時価と譲渡価額との差額に相当する金額が相手方に対する贈与と認められる場合には、法人所得の計算上その贈与の金額は益金に加算される(すなわち当該資産の贈与または低廉譲渡時の時価と簿価(低廉譲渡の場合には実売価額)との差額は、資産の売却益(損)と同様に取り扱われる。)尤も正確には法人税法では法人の寄附金は税法に定める一定の限度で損金に算入することが認められるから、その贈与(寄附)の金額の全額が益金とされるのではなく、別途税法で認容される範囲の金額は寄附金として損金算入が認められる(法人税法、昭和四〇年法律第三四号による改正前のもの、以下同じ、第九条三項、同法施行規則第七条ないし第八条。)ところで以上の資産譲渡(贈与を含めた広義の資産譲渡)の場合の譲渡益(損)の課税上の取扱は、基本的には個人の場合も同様であるが、所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの、以下同じ)においてはこの点同法第五条の二に明文の規定があるのに対して法人税法においてはこれに対応する規定を欠いている。ただ法人税について国税庁の法人税基本通違七七(昭和四〇年直審(法)五九により削除されたもの)に、低廉譲渡の場合に上記のような所得計算がなされる旨の規定が設けられている。国税庁の通達は、税務当局としての法規の解釈を示すものであり、法人の所得計算上の原理として、税法上の明文の規定はなくても、当然上記のように取り扱われるべきものとする税務当局の税法解釈を示すものであるが、同様趣旨のことが所得税法においては明文規定をもつて示されているにかかわらず法人税法がこれを欠いていることから、税法の解釈上この点を問題とされる場合がある。以下この点についての被告の見解を述べることとする。

(ii) 資産の贈与または低廉譲渡の場合の譲渡所得課税に関する上記所得税法第五条の二の規定は、昭和二五年のシヤウプ勧告に基づく税制改正にその端を発する。この譲渡所得課税の考え方についてシヤウプ勧告は次のように述べている。

「増加する所得に対する厳格な課税理論に従えば納税者の資産の市場価格の一年内の増加額は毎年これを査定して課税すべきものであるが、これは困難であるので、実際においてはかかる所得は、納税者がその資産を売却して、所得を現金または他の流通資産形態に換価した場合に限つて、課税すべきものとされている。この換価が適当な期間内に行われる限り、課税はただ時期を若干遅らせたにすぎず基本原則は何ら害されはしない。然し、資産所得に対する課税を無制限に延期すれば、納税者は、本来ならば課せられるべき税負担の相当部分を免れることができるから、無制限延期はこれを防止する必要がある。これを防止する最も重要な方法の一つは、資産が贈与または相続によつて処分された場合に、その増加を計算してこれを贈与者または被相続人の所得に算入せねばならないものとすることである。」(シヤウプ使節団、日本税制報告書附録巻III、大蔵省主税局編B12頁参照)

要するに、このシヤウプ勧告の思想は、譲渡所得は資産を売却することによつて初めて実現する(資産の売却価額が、取得価額や譲渡経費を上廻る場合にその差額が譲渡所得を構成する)という考え方ではなく、譲渡所得の基因である資産利益は、資産の値上り(価値の増加)という形で既に発生しており、これを資産が売買であれ、贈与であれ、その所有者の支配から離れる際に清算しようという考え方に立つている(ここで「所得の実現」という言葉は法律的な意味で使つているのではない。若しこの用語を課税原因の発生すなわち税法上の課税適期に達するという意味に用いるものとすれば、実定法は資産の所有権の移転の時期を以て課税対象たる損益発生の時期としているのであるから、税法上の意味において単なる資産の値上り益を以て「所得の実現」とみているわけでないことはいうまでもない。)。

昭和二五年度の税制改正ではこのシヤウプ勧告の思想を全面的に受入れ、同年改正の所得税法において遺贈または贈与の場合のほか、相続の場合にも被相続人に対して譲渡所得が課税されることとなつていたが、その後昭和二七年に至り、相続の場合は本人の意思に基づかぬ資産の移転であり、しかも税負担も相当重いので、相続の時のみなし譲渡課税を廃止して被相続人の取得価額を相続人に引き継がせて譲渡所得の課税の延期を認めることとされた。また、昭和三七年には、所得税法第五条の二第三項が追加され、資産贈与等の場合も、一定の手続をとつたうえで、受贈者等が贈与者側の取得価額を引き継ぐことにより、譲渡所得の課税を延期する措置が認められることとなつた。

然し、これらの改正は何れも取得価額の引継という形で課税の時期を延期したにすぎないものであるから、譲渡所得課税の基礎になる考え方そのものは変つていない。昭和三五年および三六年における税制調査会の審議の際この譲渡所得の考え方につき詳細な検討が行なわれたが、結局理論的にはシヤウプ勧告の立場が支持され、上記三七年の改正が行なわれたに止つたのである(昭和三五年一二月九日付税制調査会第一次答申別冊「答申の審議の内容及び経過の説明」三六九頁、昭和三六年一二月七日付同調査会答申別冊五四六頁乃至五四八頁参照)。

(iii) シヤウプ勧告に基づく昭和二五年の全面的な税制改正において、上記の考え方から所得税法においては前記第五条の二の規定が設けられた。このような規定が所得税法に設けられたことは、法律上当然のことであつた。けだし、所得税法における課税所得の概念は、同法制定の当初から法人税におけるそれよりも狭く、いわゆる所得源泉説によつて年々継続的規則的に発生する所得としての性質を有すると認められる所得すなわち給与所得、事業所得等税法で限定的に列挙した種類の所得に限つて課税所得とする建前をとつてきたところ、漸次課税所得の範囲が拡大されて今日のような課税所得の体系が形成されたのであるが、譲渡所得が所得税法上の課税所得の一部にとり入れられたのは昭和二一年以後のことである。しかもその譲渡所得の概念は、例えばアメリカ税法におけるキヤピタル・ゲイン(資産利得)の概念より狭く、資産の譲渡による所得すなわちその年中の総収入金額から当該資産の取得価額、設備費、改良費および譲渡に関する経費を控除した金額(所得税法第九一条一項八号と同一表現)とされていた。すなわち、そこでは単に資産の売却益(損)を以て譲渡所得(損失)と考えていたのであつて、シヤウプ勧告の考え方は明らかにこの概念の拡充であり、しかも立法技術的にも上記所得税法第九条一項八号にみられる表現そのものは、そのままに維持したのであるから、新たに第五条の二を設けていわゆるみなし譲渡所得の概念を定立する必要があつたのである。

(iv) 他方キヤピタル・ゲインに関するシヤウプ勧告の思想は、法人所得の計算においても、もとより妥当するところであるが、昭和二五年の改正において法人税法には所得税法第五条の二の規定に対応する規定は設けられなかつた。けだし法人税法における資産損益についての所得概念は、所得税の場合と異り、従来からシヤウプ流の所得概念が採用されており、別にそのために特別の規定の創設を必要としないものと解釈されたからである(ただこの点の税法上の解釈を明らかにする意味で同年に制定された法人税基本通達において上記七七の規定が設けられたのである。但し、この場合も低廉譲渡の場合のみをとりあげ、現物贈与の場合の取り扱いについては特別にふれていないが、これは従来からの税務処理上の取り扱いが当然支持されるものとして、特に規定を設ける必要もないと考えたものと思われる。)。

法人税法における所得計算は、所得税の場合のように、一定の意味内容を持つた各種所得の種類ごとに所得計算を行つた後これを合算して総所得金額を計算するという方法をとらず、法人の各種の取引を益金、損金に分け、各事業年度の総益金から総損金を控除した金額によつて計算される(同法第九条一項)。法人税法においても、その所得計算について税法目的からする各種の詳細な規定(例えば固定資産の減価償却の方法、耐用年数、たな卸資産の評価、損金処理を認められる各種引当金の計算、その他政策目的からする各種特別措置等)が設けられているが、所得計算の基本規定としては上記第九条一項の規定があるに止まる。そして何が益金を構成し何が損金に該当するかの判断については、上記のような税法上の特別の規定がある場合を除いて、一般に公正妥当と認められる企業会計上の収益ないし費用(損費)の概念に依存している。従つて、所得税法においては税法固有の概念として譲渡所得の定義が定められていたので、これを拡充するために特別の立法措置が必要とされたのに対して、法人税法においては法律的には総益金から総損金を控除して所得を計算するという規定によつてカバーされていたのである。

法人税における所得概念は古くからいわゆる純資産増加説に立脚しているというのが定説である。すなわち、この概念によると、資本の払込以外において純資産の増加の原因となるべき一切の事実を益金とし、資本の払戻し、および利益の処分以外において純資産の減少の原因となるべき一切の事実を損金とし、その総益金と総損金との差額を所得(または欠損)として認識するのである。尤も純資産増加説といつても事業年度の期首と期末の財産価額を比較してその増加額を所得として認識するというようないわゆる財産計算法による所得計算の方法を前提とするものではなく、その具体的な所得計算の方法は近代的な企業会計における所得計算原理である損益計算法を基本的建前とするものである。然し、一定の会計期間に帰属する損益の計算においていわゆる損益法的所得計算原理がとられるにしても、法人企業はもともと営利追求の手段として人間の作つたものであり、企業の目的を達成(あるいは利益追求の目的に失敗)した結果法人が解散し清算が結了した場合を考えると、法人に帰属する一切の財産は、そのときの財産価値で処分されその企業の一生を通じた総損益が確定するわけである。この限りにおいて、窮極においては資産の値上り等による企業の含みはすべて損益面に表現されやがては所得として実現される実質を有するものということができる。法人企業の所得計算において、財産法的要素を有するものとして、いわゆる資産の評価増減による損益がある。改正商法は固定資産の評価増を禁止したが、一定の場合に評価減を行なうことはこれを予定している。(同法第二八五条の二)税法はこの商法改正後も従来の評価損益の規定を存続し企業が評価増減を行なつた場合の税務上の取扱基準を定めている(法人税法施行規則第一七条、第一七条の二)。この種の帳簿上の操作(帳簿価額の増減額)による損益の概念は、所得税法のあづかり知らないところであり、法人税の所得計算において損益法的手法による所得計算を原則としつつも、一部財産法的手法による損益の修正が行なわれることを物語つている。

以上要するに、法人の所得計算は、一定の会計期間を限つた期間損益の計算としては、損益法が原則とされるが、長期的観点でみる場合には―窮極的には法人の設立から解散清算までの全期間を通じてみる限り―その損益の総体は財産法によつて計算される損益に一致する。そして法人が各事業年度において行なう評価損益は、財産状態に特別の変化があつた場合に当該資産の処分をまたず、これを損益として表現し、損益法による所得計算を修正し財産計算による所得計算に近づける手続であるということができるであろう。

以上述べたとおり、法人の有する資産の値上り益は、法人がその資産を保有する限り―最終的には清算の手続までまつことになるかもしれないにせよ―何時かは損益計算面に上程される筋合である。然し、法人が資産を無償で贈与した場合等通常の商取引の手続以外の方法でその所有権が第三者に移転した場合には、そこでこれを時価評価して過去の値上り益を清算して課税する方法をとらない限り、その値上り益については遂に課税のチヤンスを失することになる。上記の法人所得の概念を展開する場合、ここに当然この種資産の贈与等の場合における当該資産の時価評価による資産利益の課税の考え方が生ずる。以上述べたところは、帰するところ冒頭に述べたシヤウプ勧告のキヤピタル・ゲインの考え方と一致するものということができよう。

法人税の所得計算の考え方―ひいては企業会計における所得計算の考え方も同様―は、古くから以上のような考え方に立つていた。例えば戦前における各種の法人税の解説をみても、同族会社の行為計算の否認を行なう事例として、資産の無償または低廉の譲渡があつた場合に、その資産の時価と簿価(または実売価額)との差額は、法人の益金に加算され、且つその取引の相手方が同族会社の役員である場合にはこれを賞与として認定し、法人の利益処分として取り扱うという如き説明がなされているのが通常であり(例えば片岡政一、会社税務会計原理二八六頁千倉書房昭和十四年)課税の実務においてもこの種事例は枚挙にいとまがない。このような取引は、同族会社に多いことからいわゆる行為計算の否認(法人税法第三〇条)の対象事例として説明されることが多いが、所得計算の考え方について上記のような立場に立つたうえでこそ行為計算の否認の対象にもなるということができよう。法人税法に、所得税法第五条の二に対応する規定がないのに同様の取扱が行なわれる税制上の根拠は以上のとおりである。

(v) 資産損益にかかる税法上の考え方につきなお若干の補足的説明を加えておきたい。

資産の贈与があつた場合その贈与のもつ経済的価値はどのように評価されるのか。その価値を表わすものは、もとより贈与時の資産の時価であつて、その帳簿価額あるいは取得価額ではない。然りとすれば、その贈与なる取引はこれを経済的に価値評価すればその時価において取引の対象となつたものであり、その意味において時価による価値の実現があつたものとみることができる。他面、若し当該資産を売却して現金に換価した後これを贈与したとした場合受贈者の受ける経済的価値は現物贈与の場合と等価であるが、贈与者の側においてはまぎれもなく売却益が生じ当然課税の対象となる。若し現物贈与の場合に、譲渡益の課税を行なわないとするならばそれは明らかに現金に換価して贈与する場合とのバランスを失する。以上の点は低廉譲渡の場合の時価と実売価額との差額(贈与部分)についても同様である。以上のような点に「みなし譲渡益」の課税についての常識的な根拠を見出すことができよう。

次に、法人が贈与により固定資産を取得した場合の取得価額は、税法上その取得時における価額を基礎とすべきものとされている。(法人税法施行規則第二一条の七)この点は、企業会計原則においても同様である。(同原則五のD)贈与による無償取得であるにかかわらず、その取得価額を零としないで時価評価をすべきものとされていることは何を意味するか。それは明らかに、贈与者の側において時価評価を行ない「みなし譲渡益」が課税される建前がとられていることと対応している。もし受贈者が無償取得した財産の取得価額を零とするような法制がとられているならば、将来その資産が売却された場合その売却価額の全額が譲渡所得として把握されるが、受贈者の側において受贈財産の時価額をもつて取得価額としつつ贈与者の側においてもし時価評価による課税が行なわれないとすると贈与者が当該資産を保有していた間に生じた値上り益は課税の対象から永久に除外されることとなる。所得税法においては、相続または贈与の場合にみなし譲渡所得を課税しない道を開いたが、その場合にはすべて被相続人または贈与者の取得価額を引き継ぐこととされており、(所得税法第五条の二、三項、第一〇条五項)将来相続人または受贈者の段階でその財産が売却された場合に被相続人または贈与者が資産を保有していた期間内に生じた値上り益部分まで含めて課税するチヤンスが留保されている。ところが法人税法においては、これに対応するような制度がなく、上述のように無償取得による財産はすべて時価額により取得価額を計算すべきものとされていることを考えると、法人税法が財産を贈与した法人に対して「みなし譲渡益」を課税することを予定していることは明らかであると考えられる。以上の法理は、低廉譲渡の場合にも勿論該当する。

最後に所得税法と法人税法との立法技術上の差異を示す若干の条文を引用して置こう。巷間借地権の設定に伴つて権利金の授受が行われるが借地権の設定は現在の借地事情の下では借地法による借地権者の保護と相俟つて、屡々土地の利用権の譲渡ともいうべき効果を生ずるので、税法はこれに着目して一定の条件に該当する場合に、これをいわば土地の経済的な価値の部分的譲渡として把え、キヤピタル・ゲイン課税を行なう仕組みとしている。ところがこの場合所得税法がこの種借地権の設定に伴なう権利金の収受があつた場合にこれを譲渡による収入金額として譲渡所得の計算をすることとしている(所得税法第九条一項八号、同施行規則第七条の一〇)のに対し、法人税法の場合にあつては一定の条件に該当する借地権の設定があつたときは権利金等の収入の如何にかかわらず、借地権の設定された土地の簿価の一定部分を損金に算入することとしている。(法人税法施行規則第一六条の三)この規定は、借地権の設定に伴ない、その借地権の価額に相当する部分は当然キヤピタル・ゲインにかかる益金として課税の対象とされその反面これと見合つて上記規則第一六条の三に定める土地の簿価が損金に算入されることを予定しているのであつて、同規則に借地権設定の対価たる権利金の収受について何もふれていないのは、まさにその権利金の収受がない場合またはその価額が低廉で借地権価額の一部に見合う贈与があつたと認められる場合には、当然その贈与の価額とみられる部分が益金に加算されることを前提としているものに外ならない。

(5) 仮に右(4)の主張が認められないとしても、同族会社の行為計算否認規定によつてもまた右と同一結論に到達するものである。

(6) 以上により結局原告が本件土地を売却したことによる益金の額は、一〇、一〇四、〇〇〇円であり、損金に算入さるべき原価は五、二五〇、〇〇〇円であるから、原告の右土地売却益は四、八五四、〇〇〇円となる。そして原告は前記のとおりそのうち四〇〇、〇〇〇円はすでに計上しているから本件土地売却益計上洩は結局四、四五四、〇〇〇円となる。

(尚、本件再更正による右土地売却益計上洩は六、一〇四、〇〇〇円であるが、本訴において被告はそのうち四、四五四、〇〇〇円のみを維持するものである。)

(四)  貸金利子(認定賞与)計上洩五〇五、四二二円について

原告より前記小林永治に対する本件土地の売買代金四、〇〇〇、〇〇〇円と、その適正な時価一〇、一〇四、〇〇〇円との差額六、一〇四、〇〇〇円につき小林貴治は、本件審査請求を担当した協議官に対し「低額譲渡と認定された分は勿論未収金として計上し、社長よりこの差額を取立てる」旨を答弁していることから、被告は右差額を右原告代表者小林永治に対する貸付金と認定した。そして原告会社の代表者に対する貸付金の利率が日歩二銭四厘となつているので、右六、一〇四、〇〇〇円に対する係争事業年度中の利息額は、五〇五、四一一円となる。ところで、これは、原告会社において未収利息として計上していないので、利息相当額の利益を会社代表者に利益処分の性質を有する役員賞与として与えたものとみるべきである。

第四、被告の主張に対する原告の答弁および反論

一、被告の本案前の主張について、

(一)、被告は本件更正処分は再更正処分がなされたことにより消滅していると主張しているが、国税通則法の下では(同法八二条参照)更正処分中課税価額に関する部分は再更正処分に吸収されて存続しているのであるから、被告のいうように全く消滅しているものではない。また同法八七条一項三号は再更正処分により更正処分が当然に消滅するものでないことを前提とするものである。

(二)、次に被告は再更正の取消を求める部分は、所定の不服申立てを経由していない(この事実は認める)から不適法であると主張する。しかし前記国税通則法八七条一項三号は二重となるような不服申立前置は要求せず、取消訴訟は本来不服申立前置を要しないという原則に立ち返ろうとするものであるから、同条は更正処分に対する取消訴訟継続中に再更正が行われた場合に限らず、本件の如く更正処分に対する所定の不服申立手続経由後に再更正がなされた場合にも準用せらるべきである。

二、第三、被告の答弁および主張三、中原告が同族会社であること、(1)の仕入中否認五〇二、七〇〇円については争わない。

(一)、旅費中否認一五九、〇〇〇円について、

(1) 原告の係争事業年度中の代表者小林永治にかかる未払旅費四二四、六〇〇円に対応する主張はすべて原告会社の社用出張として真正に存在したものであるから、全額損金となるべきものである。

原告の旅費規程は昭和三五年七月一日に制定したものであり本件未払旅費の精算書は出張のたびごとにつくられており、その中には記憶、右小林永治のメモ、信書等により後より記入または転写されたものがあるにしても、記載内容は正確である。また原告は小規模な同族会社なので出張命令簿等を代表者について備えていないが、これは一般の慣行でもあり、未払金として処理されているのは社長にかぎり一時立替払したものである。

出張の回数が他の年度にくらべて増加したのは業況の変化と会社の実績向上によるものである。

(2) 被告は旅費の性質につき実費弁償主義を本則とすべきであると主張するが、我国税法上の旅費は慰労的な給付をも含むものであり、厳格な実費弁償主義を緩和したものというべきである。つまり出張を命ぜられて就業場所を離れて執務することは、執務時間の延長ないしは執務の精神的肉体的負担増加をもたらすものであるから、旅費のうちにはこれに対する報酬とみなされるべき部分も含んでおり、交通費、昼食費等の厳密な意味での実費に限られるものではない。

(3) 原告の旅費規程およびその運用上の不合理性について被告の主張する点につき左の如く反駁する。

(イ) 日当について

被告は、「旅行の時間的、距離的条件によつて日当の定額に差異を付するのが合理的である」といわれるが、それは国家公務員旅費法の範疇における合理性の謂であつて、いわゆる合理性一般のことではない。旅行の時間的、距離的条件によつて、日当金額に差異を付している法律制度は、世界の文明国中、わが国家公務員旅費法のみであることを、被告はどう弁解するのであろう。而も、この日当たるや、「午後十一時頃から夜行列車で出発してもその日は一日として計算されるし、反対に夜行列車で早朝帰庁したような場合でもその日は一日として計算される。」(旅費法精義第二版、大蔵省主計局給与課長岸本普著八八頁)のである。合理性一般の角度からいえば、これが杜撰な作り話でなくて、何であろう。更に被告の引用する公務員の旅費法は、旅費日当計算の出発点を、在勤官署としている。(旅費法第二条、第二七条)これも世界の文明国中、わが国家公務員旅費法のみに見る現象である。それは、明らかに合理性一般の問題ではない。

更に被告は日額旅費に言及しておられるが、「貴見どおり普通旅費を継続支給すれば本人は多大な利得を亭受することとなる」から日額旅費という給与的性格の濃厚なものを支給するのである。(前掲書二〇二頁)

わが公務員旅費法に於ける日当制度が、いかに杜撰不合理であるかは、さらに詳論の必要はないものと思うが、重大な点は、この公務員旅費法が、わが国の民間企業にとつて、法律上何らの規範性ももたないとする一点の認識である。

(ロ) 宿泊料について

被告は、「費用実費の宿泊先における差異を前提として規定するのが合理的である」といわれるが、これも国家公務員旅費法の範疇における合理性の指摘に止まり、合理性一般のことではない。商売は、公務員のお役目とは異なる業務遂行過程における当人の戦略的価値観の如何が、民間企業経営者に於ける宿泊費用を大きく規定する。この規定関係は、企業規模の大小に反比例する傾向にある。而して原告の場合、経営者は東京都内居住者である。極く稀れな例外を除いて、都内宿泊の必要はない。自動車、電車等による帰宅の可能性すら無い場合が、予想されたのである。従つて、規程の制定に当つては、経営実践の場における合理性が模索され、都外宿泊の場合をより高額としたのである。

その規程および適用の杜撰さをもつて論ずれば、公務員旅費法における場合と五十歩百歩の関係にあると云えるであろう。公務員旅費法では、宿泊料は、夜数に応じて支給される。その「夜数に応じて」とは「日当の日数計算の場合と同一趣旨で、旅行中午前零時を境として午前零時を一秒でも経過したら宿泊料が支給される」(前掲書、八九頁)のが、適用の現実であり論理である。原告の場合、社用で午前零時を越すことが屡々あるが、宿泊料は、取つておらない。而も、公務員旅費法上の宿泊は、「現実の宿泊の有無を問わない」(前掲書、八九頁)ほどの、形式的な、杜撰さをもつものである。

勿論、原告の如き民間企業の旅費に対し、公務員旅費法は、何らの法規範的拘束力も持つものでないが、被告における比較論の底意に対し、比較論を以つて反論する次第である。

(ハ) 車馬賃について

被告は、車馬賃については、何が合理的であるかを論じていない。

公務員旅費法では、タクシー代は自弁であるとし、原告の規程が、最寄駅と旅行目的地との間の往復の車馬賃と、目的地内巡廻の車馬賃とを区分取扱していないが故に、「不明瞭で、支出の事実が確認されない」といわれる。

然し乍ら、公務員旅費法が、車馬賃について、アメリカの如き証拠主義を採つていない点も、また注目に値する。(前掲書、八五頁)一等の定額をもらつて二等に乗り、差額を儲ける悪習も、ここから由来すると、いわねばならない。

(二)、従業員賞与中否認七八〇、〇〇〇円について、

(1) 本件別段賞与は、昭和三六年三月三一日の取締役会の決議により支給を決定し、法人税法基本通達二六五所定の期限までに受給者毎に分別したものであるから、同通達により係争事業年度の損金として認めらるべきものである。尚原告は昭和三六年九月一五日に源泉所得税を控除した七〇〇、八〇〇円を支給し、(同年一〇月一〇日には源泉所得税七九、二〇〇円を納付した)そのうち、六四四、〇〇〇円を受給者から貸付承諾書を徴して借入れたものである。

(2) 右通達は賞与を引当金として扱うことを認めるものであるが、そもそも引当金というものは、将来の年度で支払わるべき当期の損金であつてその金額の確定しないものをさし、その当然の結果としてこれを見積る必要を生ずるものである。

従つて例えば貸倒引当金についていえば、当該事業年度終了の日における貸金の帳簿価額の合計額が算出された後でなければ、いくら引当てたらいいかわからないように、引当金の額というものは決算日を過ぎでないと確定できないのが通例である。

しかるに被告は本件未払賞与の引当計上の日取りを争い少くとも係争事業年度の損金に算入されないことは明らかであると主張するが、それは右の引当金の本質を誤解したものである。

(3) 被告は昭和三六年八月原告会社の税務調査をした時、本件別段賞与の受給者がその賞与の支給されることを知らなかつたといつているが、引当金というのは擬制債務とでも称すべきもので本来の債務ではなく、債権者の特定やその認識を本来必要とせず、税法によりあたかも債務の如く貸借対照表の貸方に記入して当期の損金とすることが認められたものにすぎないので受給者の知不知は関係ない。

また税務調査をいつ行うかは全く被告の任意であり、そんな時点を基準とすることは被告の恣意であるうえに、生活補給的なものでなく、企業利益還元的な性格を持つ本件別段賞与の給付は、受給者の明示の承諾がなくても予め反対の意思表示がない以上、それを受諾する旨の暗黙の合意があるものと解すべきであり、会社がその支給を決定してその帳簿に記入し、法人税の申告書に添付した決算書にもその旨記載した以上、会社の支出義務は少くとも国および株主に対する関係においては確定するものである。

また支給した賞与を受給者の承諾を得て借入れたのは、会社従業員との間の私法自治の問題であり、借入期間は五年、利息は年七分と定め、利息は現に支払つているのである。

尚、企業の利益還元の性質を持つ本件別段賞与の場合には、その現実の支給は特に急ぐ必要はないので右のような処理をしたまでである。

(4) 本件別段賞与の借入には右のとおり返済期限、利息の定めがあるから退職金とは何の関係もない。

(三)、土地売却益計上洩六、一〇四、〇〇〇円について、

(1) 原告が昭和三三年四月本件土地を訴外江橋通夫より代金五、二五〇、〇〇〇円で買つたこと、更に原告は右土地を昭和三五年四月二〇日原告代表者小林永治に売つたこと、右後の取引について原告は、本件係争事業年度の所得の計算上、取得価額(原価)三、六〇〇、〇〇〇円、売却代金四、〇〇〇、〇〇〇円とし、その差額四〇〇、〇〇〇円を所得として計上したことは認める。

しかしながら、右江橋通夫への代金のうち一、六五〇、〇〇〇円は原告の簿外資産もしくは原告代表者小林永治から贈与を受けた金員によつて支払つたものではなく、その分については右小林永治が事務管理として弁済したものである。

そして、原告が本件土地を右小林永治に売却した際の代金は五、六五〇、〇〇〇円であつたが、そのうち一、六五〇、〇〇〇円は右事務管理に基く求償権と相殺したものである。

(2) 本件土地は譲渡当時道路計画地に入つており、その所有権の完全な行使は極度に制限され、右計画の廃止が内定した現在でも公には建物を建てられない。かような土地は買受けるものが殆んどなく原告と特別な関係にある原告代表者小林永治に対してしか売れず、同人が買受けても転売の可能性はない。従つて登記簿上の名義も原告所有のままになつているのである。特に原告にとつて本件土地は営業に欠くことができぬもので、原告はその代表者に売つても直ちにこれを借受けることを予定し、現に賃借中である。そして不動産研究所の鑑定価額が五、四七二、〇〇〇円である点をみても本件土地の売買代金額五、六五〇、〇〇〇円は相当である。

(3) 被告挙示の事例は東京都が必要に迫られて買手となり、別に売りたくもない者からやつと買つた場合であるから、その売買価額が高くなるのは当然である。

そもそも時価の概念自体幅のあるものであり、地方税法については土地課税台帳登載金額が時価なのであり(地方税法三四一条、三四九条)、本件取引価額四、〇〇〇、〇〇〇円は右台帳登載金額をこえていることが明らかであるから、低廉とはいえない。

(4) 我国においては通達には法源性がなく、通達を適用するためにはそれを法的に根拠づける必要があるものである。そして本件に適用になる昭和四〇年法律第三四号による改正前の法人税法においては、被告の主張するようなキヤピタル・ゲイン課税の実定法上の根拠は存在しない。シヤウプ勧告は個人の「資産の無償移転の場合」の課税もれ防止に限定された勧告であり、初めから法人についてはいささかもふれていない。

本件において被告が主張するところは結局立法論を展開したものにすぎず、何ら実定法的根拠を与えるものではない。

(四)  貸金利子計上洩五〇五、四二二円について

本件土地の売却が低額譲渡でありその時価との差額につき課税できるとする被告の主張には全面的に争うものであるが、仮に右被告の主張が認められたとしてもその差額を貸付金とする根拠は全く存しない。被告主張の通達(法人税法基本通達七七)にすら寄付金と規定しているのである。

第五、証拠〈省略〉

理由

第一、本案前の判断

一、原告は本件再更正とあわせて更正の取消をも求めているので、まずその適否について判断する。

一般に申告にかかる税額等について更正があつた後にいわゆる増額再更正がなされた場合に、この両者がいかなる関係になるかは従来見解の分れるところであるが、右更正および増額再更正はいずれも既に観念的に成立している一個の租税債務をその正当な数額に具体化するための行為であり、従つて課税標準等を全体として確認する処分であつて、増額再更正についていえば、更正にかかる課税標準等の脱漏部分だけを追加確認する処分ではなく、当初更正にかかる課税標準等を含めて全体としての課税標準等を確認する処分であると解すべきものであるから、増額再更正がなされれば先になされた更正は再更正の処分内容としてこれに吸収されて一体的なものとなり、独立の存在を失うにいたると解すべきであり、しかも右再更正に対する取消訴訟においては、再更正による増差額のみならず、申告額を超える部分のすべてについてその手続上および内容上の一切の瑕疵を主張して審理を受けることができ、かつそれによつて目的を達することができるのであるから、当初の更正を独立の対象としてその取消を求める利益はないというべきである(なお、この解釈は、東京地方裁判所昭和三八年(行)第九七号昭和四三年六月二七日判決、行政事件裁判例集一九巻六号一一〇三頁以下の説くところと同じである)。よつて本件更正の取消を求める訴は不適法であり、却下を免れない。

二、次に本件再更正、過少申告加算税および重加算税賦課決定(以下本件再更正等という)の取消を求める部分の適否につき判断する。

右再更正等について原告が所定の不服申立手続を経由していないことは当事者間に争いがない。ところで、原告は本件更正について、被告に対する再調査請求を経て東京国税局長に対して審査請求をしたところ、昭和三七年七月二〇日棄却の裁決がなされ、その頃その旨の通知がなされたこと、および被告は同年九月二九日原告に対し本件再更正等をなしたことは当事者間に争いがないところであり、本件更正および再更正等の取消を求める訴が昭和三七年一〇月一六日当裁判所に提起されたことは記録上明らかである。そこで、このような場合に再更正等の取消訴訟を提起するため不服申立の前置を要するか否かについて検討する。前記の如く更正は再更正の処分内容としてこれに吸収されて一体となると解するときは、更正に対する不服申立手続を経ていることは実質的には再更正の一部分について不服申立手続を経ているものと解しうるのであるが、国税通則法第八七条第一項第三号によると、たとえば、更正に対する不服申立手続を経由してその取消を求める訴が係属している間に再更正がなされたような場合には、その再更正について別に不服申立手続を経ないで取消訴訟を提起できるものと定めているのであつて、同法は、このような場合に実質的に再更正の全部についての不服申立を経由したものと評価して、納税者に対し繁雑な手続を強制することを避けようとしていることがうかがえる。

ところで本件においては、更正に対する不服申立手続を経由し、当該更正に対する法定の出訴期間内に、かつその出訴前に、再更正がなされた場合であつて、もし更正の取消を求める訴が再更正のなされる前に提起されていたとすれば、当然同法条同号の適用を受けて、再更正について不服申立手続を経由しないで訴を提起しうることになる場合である。したがつて、本件のように、更正に対する出訴期間内に再更正がなされた場合に当該再更正に対しても所定の不服申立手続を経由することを要求することは、前記のように再更正の結果更正に対する取消訴訟が不適法となると解されることとあいまつて、更正に対する所定の不服申立手続を経由し出訴の要件を整えた納税者に対して、更に不当に繁雑な手続の履践を強制することとなつて不合理であり、同法の前記趣旨にもそわないものといわざるを得ない。すなわち、本件再更正等に対する訴の提起は、国税通則法第八七条第一項第四号後段にいう「その他決定または裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」に該当するものというべきであるから、適法である。

第二、本案の判断

一、旅費中否認一五九、〇〇〇円について

原告は旅費精算書(甲第八号証)および証明書(甲第一〇号証の一ないし二七)を提出して代表者小林永治にかかる本件未払旅費四二四、六〇〇円に対応する出張はすべて社用としてなされたものであつて、全額損金として認容さるべきであると主張し、被告は右主張はすべてあるいは少くとも別紙記載の二六件(対応旅費額合計三一〇、一〇〇円)は架空もしくは社用でないと主張するのでこの点につき判断する。

右旅費精算書(甲第八号証)について原告は、昭和三五年七月一日に制定された旅費規程により、出張のたびごとに作成されたものであつて正確なものである旨主張するが、証人小林貴治の証言、同証言によつて真正に成立したと認める甲第八号証、証人岡村明、同飯塚毅の各証言を総合すれば、原告は昭和三六年三月末頃従来旅費について実費制をとつていたのを改め、旅費規程を定めて定額制を採用し、それを昭和三五年七月一日まで遡つて適用し、右旅費精算書(甲第八号証)を一括作成したものであることが認められ右認定に反する証拠はない。

次に、原告会社には右旅費精算書記載の出張事実を裏付ける出張命令簿その他の帳簿の備えつけがないことは当事者間に争いがないところであり、また原告は右旅費精算書の中には後から記入又は転写された部分があるにしても、それは前記小林永治のメモ、信書等により転写されたものであるから記載内容は正確なものである旨主張しながら、右メモ、信書等を一切提出しないので、甲第八号証(旅費精算書)の記載は、結局、記憶や推測等の不確実な資料にもとづくものであると認めざるを得ない。

また甲第一〇号証の一ないし二七(前記証明書)には、右旅費精算書記載の各出張のうち宿泊を伴うものの大部分のものについてそれが社用としてなされたことを各取引先等が証明する旨の記載があるが、同各号証はその体裁に照らし、また本件口頭弁論の全趣旨によれば原告が後になつて不動文字で印刷された用紙に出張社員氏名、出張年月日および簡単な用件を前もつて記入したもの(用件を全く記載していないものもある)を各取引先等に送付し、その書面の末尾に記名(もしくは署名)、押印をして貰つたものにすぎないことが認められ、後記認定とていしよくする限度において、その記載内容にはたやすく信をおくことができない。

かえつて、次表掲記の乙号各証によれば、原告主張の本件出張中、少くとも次表掲記の(1)ないし(13)までの一三件(対応旅費額一七四、一六〇円)の出張は、係争事業年度中に原告の社用のための出張としてなされたものであると認めることはできない。以下、個々の出張ごとに判断する。

(一)  後記(1)の出張については、成立に争いのない乙第九号証の二によれば、昭和三五年二月頃の出張であつて、係争事業年度中の出張とは認められない。

(二)  後記(2)ないし(5)については、成立に争いのない乙第一〇号証の二によれば、前記小林永治が沼田市に求人のため出張したのは昭和三五年二月頃に一度あるだけであつて、係争事業年度中に社用で出張したことはないと推認される。

(三)  後記(6)、(7)については、成立に争いのない乙第一四号証の三によれば、右小林永治が浜松の金田三男のもとへ出張したのは昭和三五年六月頃に一回あつただけで、同年八、九月に出張がなされたことは認められない。

(四)  後記(8)、(9)については、成立に争いのない乙第一八号証の三によれば、右小林永治が里見嘉一郎の所へ出張したのは昭和三七、八年頃のことであり、係争事業年度中の出張とは認められない。

(五)  後記(10)、(11)については、成立に争いのない乙第一八号証の一および四によれば、小林永治が係争事業年度中に加藤伍株式会社および矢野芳一方に社用で出張したかどうか明らかにできないが、同所に立寄つたことがあるにしても、他の数多い出張等のついでに立寄つた程度のものと認められ、わざわざそのために出張したとは認められない。

(六)  後記(12)については、成立に争いのない乙第一二号証によれば、菊屋国旗染工場への出張は年一回程度であり、大体二時間程度で用務がすむというものであるから昭和三五年八月八日から一一日の同所への出張のほかに同一事業年度中に二度も社用で行つたとは認められないのであつて、この(12)の出張の事実はなかつたものと認められる。

(七)  後記(13)については、成立に争いのない乙第一一号証の一ないし三、第一八号証の五ないし七によれば株式会社妙高ホテルへの出張はあつたとしても、それは昭和三六年六月頃であり、係争事業年度中の出張とは認められない。

番号

年月日

行先

金額

甲第八号証の番号

甲第一〇号証の番号

乙号証の番号

(1)

35、5、23―25

青森市(株)武田

二二、八八〇

4

一三

九の二

(2)

35、8、16―17

沼田市

八、五四〇

14

一〇の二

(3)

35、11、30―12

沼田職安外

八、五四〇

47

一〇の二

(4)

36、1、18―19

沼田小林先生宅

八、七四〇

55

一〇の二

(5)

35、2、18―20

沼田小林先生、職安

一五、一四〇

67

一一

一〇の二

(6)

35、8、28―29

浜松金田

一〇、五六〇

18

一四の三

(7)

35、9、8―9

浜松金田

一〇、五六〇

21

一四の三

(8)

35、9、25―26

京都西陣

一六、〇五〇

28

一八の三

(9)

36、2、2―3

京都里見機業店

一五、六〇〇

60

一〇

一八の三

(10)

35、10、1―2

京都矢野染工

一五、三〇〇

31

一八の一

(11)

35、11、1―2

京都加藤伍

一六、五五〇

41

一九、二〇

一八の四

(12)

36、1、24―26

大阪菊屋染工場

一六、二〇〇

68

一二

一二

(13)

36、3、12―13

長野県田口

九、五〇〇

75

二四、二五

一一の一ないし三

一八の五ないし七

合計 一七四、一六〇

尚、証人小林貴治の証言中には右原告主張に沿う部分もあるが、右認定に照らし措信できない。その他右一三件の出張についての原告の主張を肯認するに足りる証拠はない。

よつて本件旅費中前記一七四、一六〇円の範囲内で一五九、〇〇〇円を否認した被告の処分に違法はない。

二、従業員賞与中否認七八〇、〇〇〇円について、

原告は本件別段賞与は係争事業年度内である昭和三六年三月三一日の原告取締役会の決議によりその支給を決定し、同年五月三一日までに受給者ごとに分別したので法人税法基本通達二六五(昭和四〇年直審(法)五九により削除されたもの)により係争事業年度の損金として認められるべきであると主張する。

ところで右基本通達によると、「法人が使用人に対する賞与を引当て、これを損金として計上した場合においても、当該引当金を支給することが確実であり、且つ、法第一八条から第二一条までの規定による申告期限までに受給者ごとに分別されているときはこれを認める。」と定められているが、賞与が受給者ごとの分別まですんでいてなお債務として確定していないということは通常考えられないところであるから、右通達は当該賞与を支給する債務が遅くとも申告期限までには確定していることを予定しているものと解さざるを得ない。その意味では右通達にいう引当金はむしろ未払金の性質を有するものと解するのが相当であつて、右通達が法に違反して未確定の費用や、支出原因未発生の費用を見積りにより引当てることを認めたものと解すべきではない。

そこで本件についてみるに、成立につき争のない甲第九号証、乙第五号証、乙第七号証の二、証人小林貴治、同飯塚毅の各証言を総合すると、原告は昭和三六年三月一五日頃から訴外飯塚会計事務所の税務指導を受けることとなつたが、その示唆ないし助言を受けて、同年三月三一日の取締役会において、従業員に対して定期に支給する一般賞与と区別したいわゆる利益還元別段賞与(賞与金の支出後に原告がそのまま受給者から借入れて、銀行利子より有利な利率による利子を支払うもので、従業員への利益還元および安全利殖と低利資金の活用を図ろうとしている。)を支払うこととし、その金額を七八万円、借入期間を五年、利子を年七分等と定める旨を決議したことを認めることができる。もつとも成立について争いのない乙第六号証には、原告が臨時賞与支部を決定したのは昭和三六年五月であるとの記載があるが、その記載内容は、証人小林貴治の証言に照らして、具体性と信ぴよう性とに欠けるものと認められるので、同号証によつて右認定をくつがえすことはできず、その他右の認定を動かすに足る証拠はない。そして、成立につき争いのない甲第一号証、乙第二三号証によると、原告は昭和三六年五月三日係争事業年度分の法人税確定申告書を提出したが、その際右別段賞与を未払金として損金計上したことが認められる。次に証人小林貴治の証言、同証言と本件口頭弁論の全趣旨とによつて真正に成立したと認める甲第一〇号証の一ないし一〇および本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、昭和三六年九月一五日に、源泉所得税(七九、二〇〇円)を控除した合計七〇〇、八〇〇円を別段賞与として支給する旨、原告の従業員に告知すると同時に内金合計六四四、〇〇〇円をそのまま各従業員から借入れることにして、各受給者から貸付承諾書(期間五年、利率年七分とする)を徴したこと、かつ、これに伴い一部の現金支給と借入金の利子支払について経理上の処理をとり、翌一〇月一〇日に右の源泉所得税を納付したことを認めることができる。

しかし、原告が損金に計上した右別段賞与が係争事業年度分の法人税の申告期限(昭和三六年五月三一日)までに各人ごとに分別され、当該賞与を支給する債務が確定したことについては、これを肯認するに足る証拠はない。もつとも甲第一一号証には昭和三六年三月末別段賞与支給内訳の記載があるが、証人梶原茂延の証言に照らし、係争事業年度分の法人税の申告期限までに作成されたものかどうか疑わしく、また同号証によつて右の事実を肯認できるものではない。

かえつて、右の別段賞与が本件係争事業年度の債務として確定したものであるかどうかについては、次のような事実が認められる。すなわち、証人小林貴治の証言によると、原告は、訴外飯塚会計事務所との関係を生じた昭和三六年三月一五日前において、右別段賞与の制度を採用実施したことは全くなく、従業員(十数名)に対して別段賞与を支給することを一般に告知したのは同年九月になつてからであつて、同年四月以降九月までに退職した従業員に対して退職時に別段賞与ないしその借入金が支払われたことはなく、昭和三七年度においては、その支払がなされなかつたことが認められ、証人小林貴治、同飯塚毅の各証言によると、昭和四一年三月本件別段賞与の借入分の返済期が到来したときにも、原告は飯塚毅税理土にその処理方を質問し、同人の指示によつてはじめてこれを弁済するにいたつたことが認められ、また証人梶原茂延の証言によると、日本橋税務署の担当職員が昭和三六年八月半頃本件係争事業年度分の法人税について原告方で調査した際、夏季の賞与は現実に支給され、損金に計上されていたけれども、本件別段賞与については調査現場に居合せた二、三人の従業員は別段賞与の存在さえ知らない状態であり、また調査に当り原告から提出された帳簿書類のなかにも受給者の作成すべき貸付承諾書のごとき証書は見当らず、その他別段賞与の給与制度が実施され又は金員の支給があつたとみられるような形跡は全く存在しなかつたことを認めることができる。そして、右各認定事実を動かすに足りる証拠はない。更に前掲乙第二三号証および本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、原告の本件係争事業年度の夏季および冬季に従業員に支給された賞与の額は、それぞれ二三二、〇〇〇円および二三九、〇〇〇円であつたことが認められ、別段賞与の総額七八〇、〇〇〇円がこれらの一般賞与に比し非常に高額なことが明らかとなるのであるが、証人小林貴治の証言によると本件係争事業年度当時に原告会社には労働組合もなく、就業規則もなかつたことが認められ、また前記甲第九号証によると、前記原告の取締役会が決議するところの別段賞与の内容は、これを現実に支給するものではなく、受給者の意思にかかわりなくはじめから借入を予定し、しかも償還期間、利率等の借入条件についても原告が一方的に定めうるという構想のもとに考えられたものであつたと認めることができるのである。

以上認定の事実によると、本件別段賞与は、昭和三六年九月受給者一般に告知されるまでは、原告が同年三月三一日の取締役会で一方的に決議しただけの存在にとどまり、受給者となるべき従業員に知らせもせず、またその支給を約束したものでもないのであるから、右決議によつて原告がなんらかの拘束を受けるべき要素はないのみならず、別段賞与といつてもはじめから現実に支出することを予定していないものであるから、その実施の時期や支払の時期などの決定について原告の有する選択の自由は極めて大きく、原告の恣意性が働く可能性が大きいことも否定できないのである。したがつて本件別段賞与は、前記法人税基本通達二六五の要件に当らないのみならず、以上認定の諸事実の下においては、本件別段賞与を本件係争事業年度における法人税法所定のなんらかの意味における損金に当ると解することは到底できないものというべきである。

よつて、被告がその損金算入を認めなかつたことは適法であつて、この点についての原告の主張は理由がない。

三、土地売却益計上洩六、一〇四、〇〇〇円について、

(一)  原告は本件土地を昭和三三年四月代金を五、二五〇、〇〇〇円とする売買契約により取得し、更に昭和三五年四月二〇日これを原告代表者小林永治に売却したが、原告はこれについて右土地の取得原価を三、六〇〇、〇〇〇円、売却代金を四、〇〇〇、〇〇〇円としてその差額四〇〇、〇〇〇円を右土地売却益として本件係争事業年度の所得に計上したことは当事者間に争いがない。

そして被告は、「原告が本件土地を売却した代金は四、〇〇〇、〇〇〇円であるが、右土地の昭和三五年四月頃の時価は、一〇、一〇四、〇〇〇円(坪当り四二一、〇〇〇円)が相当であるから、右売却代金額は著しく低廉である、また、そのような場合法人税法上益金に算入すべき金額は右土地の時価一〇、一〇四、〇〇〇円と解すべきであり、他方損金となるべき原価は五、二五〇、〇〇〇円であるから、右土地売却益は四、八五四、〇〇〇円となり、結局四、四五四、〇〇〇円が右土地売却益計上洩である。」と主張する。

(二)  そこでまず本件土地の時価について判断する。

被告は、東京都が昭和三五年二月頃本件土地と近傍類地の関係にある土地を買収した際の価額(坪当り平均四二一、三九九円)およびその算出根拠をもつて、同年四月当時の本件土地の価額決定に適用すべきであると主張する。

ところで、成立につき争いのない乙第一、二号証第二四、二五号証には、東京都が買収した当時の右近傍類地の土地価額がその算出根拠とともに記載されているが、右乙号各証を検討すれば、右の買収はなるほど形式は任意買収であるけれども、東京都が地下鉄工事のため必要があつて、右土地代金のほかに営業補償、住宅補償等について交渉し買収したという特殊な事例であるから、右乙号各証の記載だけにより、その価額(坪当り平均四二一、三九九円)が右土地の当時の客観的な価額を正当に反映したものと速断することには、なお躊躇の念を禁じえない。

また右買収価額の算出根拠それ自体を右乙号各証により検討してみても、右近傍類地の取引事例としては一件だけであつて、右買収価額は当該土地附近の通り(銀座通り)に面した土地の時価を坪当り六〇〇、〇〇〇円とし、それに種々の修正を加えて算出しているものであるが、右表通りの時価六〇〇、〇〇〇円というのが、昭和三三年に行われたという坪当り四一五、〇〇〇円の近傍類地の借地権売買の実例(借地権の具体的内容すら不明である)および世評という薄弱な根拠にのつとつているのであるから、そこから算出された右価額(坪当り平均四二一、三九九円)の正当性について疑いをいれる余地なしとしない。

また、本件土地が道路計画の予定地となつていたため、建築基準法第四四条第二項の制限に服していたことも争いのない事実であり、このことも本件土地の時価に影響しないとはいえない、かえつて、本件口頭弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六号証によれば、財団法人日本不動産研究所は本件土地が道路予定地に入つていることをも考慮したうえ、昭和三五年四月頃の価額を五、四七二、〇〇〇円(坪当り二二八、〇〇〇円)と鑑定していることが認められ、昭和三三年四月原告が訴外江橋通夫より買受けた時の本件土地の売買代金が五、二五〇、〇〇〇円であつたこと(前記のとおり当事者間に争がない。)に照らすと、この鑑定価額は、時価より低いとの批判の余地も存するが、他に本件土地の昭和三五年四月当時の適正な価額を推認させるに足りる資料がない以上、右適正な価額は原告主張の売買価額五、六五〇、〇〇〇円を超えていたものと認めることはできない。

(三)  そうとすれば、本件土地の売却により原告の益金に算入すべき金額は、最大限五、六五〇、〇〇〇円であり、他方損害となるべき原価が五、二五〇、〇〇〇円であることは当事者間に争いがないのであるから、結局、本件土地売却益は原告計上額の四〇〇、〇〇〇円をこえないこととなる。よつて、その余の争点について判断するまでもなく、本件再更正のうち本件土地売却益計上洩の部分は全額取消しを免れない。

四、貸金利子(認定賞与)計上洩五〇五、四二二円について、

被告は、「原告から原告代表者小林永治に対する本件土地の売却代金四、〇〇〇、〇〇〇円とその適正な時価一〇、一〇四、〇〇〇円との差額(六、一〇四、〇〇〇円)は、原告より右小林永治に対する貸付金と認められるから、それに対する係争事業年度中の利息額は原告所定の利率(日歩二銭四厘)によつて計算すれば五〇五、四二二円となり、これは原告会社において未収利息として計上していないので、会社代表者に利益処分の性質を有する役員賞与を与えたものとみて、この利息相当額は係争事業年度中の原告の益金となる。」と主張する。

しかしながら、仮に原告から右小林永治に対する本件土地の売却代金額が被告主張のとおり四、〇〇〇、〇〇〇円であり、かつその売買時の時価が原告が売買価額として主張する五、六五〇、〇〇〇円であつたとしても(それ以上であると認めるに足りる証拠のないことは先に判断したとおり)、その差額が原告より右小林永治に対する貸付金とされたと認めるに足りる証拠はない。もつとも乙第六号証には右売買が低額譲渡ならば差額は右小林永治よりとりたてる旨の記載もあるが、本件口頭弁論の全趣旨、すなわち、被告自身本訴において、原告が本件土地を昭和三三年四月代金五、二五〇、〇〇〇円で取得した際、その代金のうち一、六五〇、〇〇〇円は原告の簿外資産から支出されたか、もしくは原告が右小林永治から贈与を受けた金員により支払われたものであると主張していることにかんがみるときは、低額譲渡による差額があるとすればそれはむしろ右経緯に照らし役員賞与と認める方が妥当であり、右乙第六号証のみで本件差額を貸付金と認めることは到底できない。よつて本件再更正のうち貸金利子計上洩五〇五、四二二円は全額取消を免れない。

五、以上により結局本件再更正にかかる所得金額(九、二〇三、二八〇円)のうち、土地売却益計上洩(六、一〇四、〇〇〇)および貸金利子計上洩(五〇五、四一一円)にかかる部分は違法であるが、旅費中否認(一五九、〇〇〇円)、従業員賞与中否認(七八〇、〇〇〇円)にかかる部分および原告においても争わない仕入中否認(五〇二、七〇〇円)および確定申告(一、一五二、一六九円)にかかる部分(以上合計額二、五九三、八九六円)は正当であるから、本件再更正および加算税賦課決定のうち、係争事業年度の所得金額を二、五九三、八六九円として算定した額をこえる部分は取消すべきである。

(尚、更正、再更正の関係について前記の見解によるときは、原告の本件再更正の取消しを求める申立ては、再更正にかかる所得金zのうち原告申告額をこえる部分の取消しを求める趣旨のものと解される。)

よつて、本件再更正および加算税賦課決定に対する取消請求は右の限度で認容すべく、その余の部分は棄却すべきであり、また本件更正に対する取消請求は却下すべきこと前記のとおりであるから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 緒方節郎 小木曾競 藤井勲)

(別表一、二、別紙省略)

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